Tokyo Twilight Busters

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ストーリー

 ・・・・・大正十二年。大日本帝国はいくつかの戦役を経て、欧米列強と並ぶ大国へと変貌を遂げた。しかし、長引く戦後の恐慌により民衆の間には不穏な空気が渦巻いていた。そう遠くない将来、また多くの血を流すことになるのだろう。
世界に覇を唱えるには、未だ多くの流血が必要な時代なのだ。

現在をさかのぼること十五年前。明治四十一年、三月二十一日。「僕」はこの世に生を受けた。僕には母の記憶と呼べるものが無かった。父は母の話を多く語らない人だったが、どうやら僕が幼い頃に母は亡くなったらしい。
それからは、父が男手ひとつで育ててくれた。父・草薙琢磨は、学会でもそれなりに有名な考古学者という肩書きも持っていたが、僕に対しては厳しくも慈愛に満ちた父として接してくれた。
母がいない寂しさが無かったと言えば嘘になるが、僕は父の威厳と優しさに包まれて成長していった。

13歳のとき、父の勧めで英国・ケンブリッジに留学することになった。もちろん父から離れる不安は充分にあった。だが、父なりに僕の将来について思う所があったのだろう。未知の不安を未来の希望に変え、英国へと単身旅立つ決意を固めた。

いまに思えば、それほど覚悟を決めるほどの事ではなかったような気がする。蒼い瞳の友人が数多く出来るのにさほど時間は掛からなかった。不慣れな英会話も徐々にではあるが、克服していった。ただ、彼らが聞くと僕の英会話はまだまだ未熟なのかもしれないが、とりあえず僕の学園生活は順風満帆といったところであった。
そう、あの一通の手紙が届くまでは・・・・。

15歳の誕生日を迎えて間もなく、突然の訃報が飛び込んできた。訃報とは、父が古代遺跡の発掘作業中、突然行方不明になったとの報せだった。
僕は身辺整理もほどほどに急遽”帝都”へ帰国の途に着いた。

帝都への道のりは、飛行機でロンドンからエジプトのカイロ、インドのボンベイ、さらには香港へと飛び、香港から定期船に乗るというあわただしさの連続であった。
しかし胸のうちでは、その慌ただしさ以上に”一刻も早く日本に着きたい”という焦燥感が上回っていた。

横浜の定期船用埠頭に降り立った僕を迎えてくれたのは、草薙家で60年も執事を務めている帯刀杢念であった。
長旅の中、一人で背負い込んでいた不安、焦り、孤独といった感情はその温かい笑顔がひとときだけ忘れさせてくれた。

「ぼっちゃん、御久しぶりで御座います。ぼっちゃんの元気な姿を見てじいやは安心しましたぞ。」

運転手も兼ねている杢念は涙まじりにそういった。車窓には、懐かしい帝都の町並みが映り、かすかな不安を乗せたT型フォードは曇天の帝都を疾駆した。

数年ぶりに住慣れた故郷の家に到着すると、安堵の為か長旅の疲れがどっと襲ってくるのが良くわかる。話したいことは山積みだが、身体がそれを許してくれないようだ。杢念に手荷物を預け、

「疲れたよ、悪いけど少し休みたい。話は明日するから」

と告げると足早に自分の部屋に向かった。

室内は昔となんら変わってはいない。整理された部屋は、僕がいつ戻っても良いようにという杢念の心配りを感じさせた。
パジャマに着替えると昔と変らぬ寝心地のベッドで安息の深遠に落ちていった。

・・・。あれから何時間たったのだろう。
心地よい眠りから目覚めると、僕はまず、父が勤めている帝国大学を訪れてみようと思った。
父はどこかで生きている。ただ連絡が取れないだけなんだ・・・・。
そう心に念じながら、帝都での第一日が始まった。

(PLAYING MANUALより)